なぜ売上はあるのに金がない?一人親方が行き着いた「1.6倍の粗利」計算ルール
電気工事士として独立して3年が過ぎた頃、通帳の残高を見て強い違和感を覚えた時期がありました。
「毎日忙しく現場に出て、売上も立っているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない……」
独立当初は「会社員時代の月給より売上が多ければ大丈夫」と漠然と考えていましたが、現場を重ねるうちにその認識の甘さを痛感しました。
現在も日々試行錯誤しながら現場と数字に向き合っていますが、お金を残すための基準として行き着いたのが「自分が使いたい(残したい)金額の1.6倍の粗利を稼ぐ」という計算ルールです。
なぜ「売上はあるのに手元に残らない」のか?
独立初期に陥りがちなのが、「売上=入ってくるお金」と錯覚してしまう罠です。
一人親方として現場を回していると、売上から引かれるお金が想像以上に多く、しかも後から時間差で請求がやってきます。
- 直接かかる経費:現場ごとの部材代、ガソリン代、高速代、消耗品代
- 固定でかかる経費:車両の維持費・車検・任意保険、工具の買い替えや修理、賠償責任保険
- 後から来る重い税金・社会保険:所得税、住民税、個人事業税、国民健康保険料
これらを引いたあとに残るのが本当の「手取り」です。見積もり時点で部材費を引いた「粗利」だけを見て安心していると、税金や保険料の支払いのタイミングで一気に資金繰りが苦しくなります。
行き着いた基準:「使いたい金額の1.6倍の粗利」
試行錯誤を重ねる中で、私は「生活費や個人として手元に残したい金額の1.6倍」を最低限の必要粗利として設定するようになりました。
例えば、手元に月30万円を残したい場合:
- $30\text{万円} \times 1.6 = 48\text{万円}$(必要な月間粗利)
※部材費などの原価は別途上乗せして請求するため、あくまで「売上 − 部材原価 = 粗利」で48万円を確保する計算です。
なぜ1.6倍なのか?
手元に残るお金(1.0)に対して、残りの「0.6」は以下に消えていく前提で動くためです。
- 税金・社会保険料(約0.3〜0.4):所得税・住民税・国保など
- 事業の固定経費・予備費(約0.2〜0.3):車両維持費、ガソリン代、工具積立、閑散期の備え
「30万円残したいから30万円粗利を稼ぐ」では完全に赤字になり、「48万円粗利を稼いで、ようやく30万円が手元に残る」というのが一人親方の現実的な感覚でした。
1.6倍を意識してから変わった日々の動き
この基準を持ってからは、日々の現場の受け方や見積もりの考え方が大きく変わりました。
- 1日あたりの目標粗利が明確になった
- 月20日稼働なら、「1日あたり最低でも約2.4万円の粗利(人工+技術料)」を出さなければ届かないと逆算できるようになりました。
- 安請け合いや無理な応援を減らす勇気がついた
- 「忙しいけれど手元にお金が残らない現場」を断り、適正な単価をいただける案件に注力する意識が強くなりました。
- 「閑散期」を恐れなくなった
- 毎月の粗利から計画的に予備費をプールする意識がついたため、エアコンの閑散期などでも焦らずに済むようになりました。
現在も試行錯誤の途中だからこそ
もちろん、天候や現場の進行、予期せぬ出費によって毎月思い通りにいくわけではありません。私自身、今でも「どうすればもっと無駄な経費を削れるか」「どうすれば単価を上げられるか」を模索し続けています。
ただ、「使いたいお金の1.6倍の粗利を追う」という明確な物差しができたことで、数字の不安に振り回されることは格段に減りました。
これから独立する方や、独立したけれどお金の残らなさに悩んでいる方は、ぜひ一度ご自身の「1.6倍の数字」を逆算してみてください。

書籍『電気工事士として独立するという選択: 未経験から職人へ、そして独立へ』
現場での失敗や葛藤、一人親方として直面するお金のリアルなど、ブログでは書ききれなかった「独立の全工程」を一冊に凝縮しました。手探りで独立を目指す前のロードマップとして、ぜひご活用ください。


