サラリーマン時代、僕は住宅リフォームの営業をしていました。
スーツを着て、言葉で売る仕事。
数字のプレッシャーやお客さんとの駆け引きに疲れて、
「自分はいったい何をしているんだろう」と感じる日が増えていきました。
表面上は仕事ができていても、どこか空っぽだった。
心と身体が、ばらばらになっていたように思います。
現場に立ちたいと思った瞬間

ある日、現場の職人さんたちを見ていて、ふと気づいたんです。
彼らは汗をかきながらも、どこか清々しい顔をしていました。
現場で手を動かす姿に、僕は憧れを感じました。
「自分も、こうやって“現実に触れる仕事”がしたい。」
言葉よりも、行動で伝わる世界。
その瞬間、心の奥に小さなスイッチが入りました。
営業という“言葉の世界”から、職人という“身体の世界”へ。
その方向に、自分の本能が動いた気がします。
身体を通して、心が整っていった
最初はうまくいかないことばかりでした。
手も遅いし、体も痛い。
でも、手を動かしている時間だけは、不思議と心が静かになった。
焦りや不安よりも、
「目の前の作業を丁寧にやる」という感覚に集中できる。
営業の頃は、常に頭の中で考え続けていました。
でも、職人仕事は“考える前に動く”。
それが、心を落ち着かせてくれたんです。
僕はそこで初めて、
「働くことが心を整える行為になりうる」ということを体験しました。
言葉ではなく、姿で伝わる仕事
職人になってから、誰かに「ありがとう」と言われるたび、
営業時代とは違う“実感の重み”を感じました。
言葉で契約を取るのではなく、
自分の手で結果を残す。
その積み重ねが、自分への信頼になっていきました。
仕事が終わって振り返ると、
現場に残っているのは、きれいに仕上がった配管と自分の汗。
それだけで、十分に満たされた気持ちになれた。
「誰かの役に立てることが、こんなに心地いいものなんだ」と思いました。
結び ― 働くことが癒しになる

営業から職人へ──。
それは、頭で働く生き方から、身体で生きる生き方への移行でした。
そしてその変化が、僕にとっての回復の道でもありました。
手を動かすことで、呼吸が整う。
呼吸が整うことで、心が静まる。
心が静まることで、ようやく“自分の人生を生きている”感覚が戻ってくる。
僕にとって職人仕事は、
社会とつながる方法であり、自分を癒す方法でもあります。

